他人の損失を見て楽しむトレーダー心理
最近の投資系(?)YouTubeでは、大きな含み損を表示しながらライブ配信をするチャンネルが人気のようだ。
他人の収支が気にならない私にとっては何が面白いのか理解し難いが、人気があるということでは何かしらの要因があるのだろう。
そのような疑問を氷解してくれたのが
バカと無知 人間、この不都合な生きもの (新潮新書) [橘 玲]
であった。
上述のYouTubeライブが人気の理由は、以下の2つがが主な要因と考える。
①脳は上方比較を「損失」、下方比較を「報酬」と感じるように進化のなかで設計されている
②子どもにとって重要なのは絶対的な損得(経済合理性)ではなく、相対的な損得(進化的合理性)であること
説明が必要だと思うので、各々解説していこう。
①脳は上方比較を「損失」、下方比較を「報酬」と感じるように進化のなかで設計されている
人間の脳は(自分より)立場が上にいるものと比較することを損失ととらえ、下にいるものと比較することを報酬と考えるようにできている。
トレードで例えると、
自分より資金力があったり利益を出しているトレーダーをみると、何だか嫌な気分になる。自分はトレーダーとして優れていない、未熟だと思うことが不快に感じるのであろう。
逆に的に上にいるものが大きな損失を出すことは、今まで上にいたものが自分より下になったという感覚になり、大きな報酬となって自分の心を満たしてくれる要因となりやすい。
数千万・数億円といった視聴者より大きな資産を持っているものが「ズッコケる」ことによって、大きな快感を得ることが出来るのであろう。
似たようなものとしてテレビのワイドショーで良く取り上げられる
・政治家の汚職
・資産家の脱税
・芸能人の不倫
いずれも今まで上にいたものが転落する様をみることによって快感を得ることが出来るため、見ていて気持ち良いものになっているのであろう。
②子どもにとって重要なのは絶対的な損得(経済合理性)ではなく、相対的な損得(進化的合理性)であること
このような実験例が記されていた。
・5歳から10歳の子どもたちが、今後知り合う予定のない子どもとオモチャの引換券を分配する実験では
「どちらも1枚ずつ引換券をもらえる」
「自分が2枚で相手が3枚もらえる」
どちらかを選択することが出来た。
この実験では、多くの子どもが「引換券を1枚」しかもらえない選択肢を選んだ。
次に
「2人とも2枚ずつ引換券をもらえる」
「自分は1枚で相手は何ももらえない」
の実験では、10歳の子どもは2対2の分配を選んだが、5歳の子どもは1対0の選択肢を選んだ。
これから言えることは子ども(経済合理性に欠けるトレーダー)は、自分が「相対的に」得をする方を選ぶということ。
自分の「絶対的」な利益よりも、相手より「相対的」な利益を得ることに満足することになるため、自分がマイナス収支であっても相手がそれ以上のマイナスであれば満足するメカニズムである。
恐らく配信しているYouTuberはこのことを感覚的に理解しているので、あえてこのような配信で多くの関心を集めることが出来るのであろう。
賢明な読者さんはお分かりだと思うが、このような動画を見ることは「エンタメ」として割り切って見る分には被害はない(時間の無駄ではあるが)ものの、自分のストレス解消や配信者のトレード賛否について考えることは一利もない。
他人がどれだけ損しようが得しようが、自分自身の「絶対的な」利益がトレーダーの全てであるため、自分のトレードに時間を割くことに集中すべきだ。
トレーダーとしての評価は避けるが、YouTubeの視聴回数を向上させる観点から見れば素晴らしい戦略。
しかし、私自身はやろうとは思わないな。
そこまでの含み損を持たないし、他人のトレードで一喜一憂するトレーダーさんとは接点を持ちたくないから。
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